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健康ニュース 朝になると具合が悪くなる「新型うつ病」

◎仕事の時だけうつになる「新型うつ病」

ここ数年、うつ病の新種ともいえる「新型うつ病」が、20代~30代前半の若者に急増しているそうです。NHKが上場企業2000社に行ったアンケート調査によると、63%の企業に新型うつ病患者がいるという驚くべき結果が出ました。
 これまでうつ病と言えば、真面目で几帳面、責任感が強い人がかかりやすく、職場でも自宅でも公私全般にわたって気力がなくなるのが一般的な症状でした。ところが新型うつ病は、「仕事の時だけうつになる」のが特徴で、帰宅後や休日は人並みに活動ができます。例えばうつ病で休職中でも海外旅行に行ったり、趣味に没頭したり自分が好きなことでは活発に行動するため、周囲からは「自分勝手だ」「怠けているだけ」「仮病ではないか」と思われ、理解されにくいのです。

◎うつの常識をくつがえす理解不能な行動

 他にも従来型うつと新型うつ病では、ほとんど真逆と言える症状や行動が多く見られます。従来のうつ病は中高年に多く、性格は完璧主義で、役職や社会的な役割に自分を同化させる傾向がありました。発症すると自責感や罪悪感が強まり、「こんな情けない人間で、会社にも家族にも申し訳ない」と自分を責めるのが特徴。食欲不振で体重が減り、生きていくのが辛くなり、死にたいとまで自分を追い込む人も少なくありません。
 一方新型うつの場合は、プライドが高く他罰的で、何かと会社でトラブルを起こしやすいなどの性格的な傾向があります。つまりいわゆる自己中心的で、他人に対する要求が多い性格の人が発症しやすいのです。その行動は一般には理解しにくく、

●上司から叱責されたなど些細なことが原因で会社を休み、そのまま欠勤が続く。

●自分が不本意な状態に置かれているのは、「会社が悪い」「上司が無能なせいだ」「こうなったのは親が悪い」「教師の教え方が悪かったからだ」などと、責任を他に転嫁する。

●人間関係に過敏で攻撃的になるなど、激しく反応する傾向がある。またプライドが高い反面、他人の顔色・評価を気にするため、他者の意見で自己評価が左右される。

●休職しても会社や同僚に迷惑をかけているという認識が乏しく、権利ばかりを主張する。

●会社には行けないが、友人と飲み会には行けるし、海外旅行もする。休職中にブログに毎日自分で作った料理をアップしたり、マラソン大会に出場したりと趣味には意欲がある。

●自分はうつ病だと公言することに抵抗を感じない

などの特徴があります。とても病気とは思えない状況ですが、確かに本人たちにとっては苦しいうつ症状があり、職場に適合できないのです。

◎自己愛は強いが自信がない

 このような新型うつが増えた要因はいろいろ考えられますが、一つのキーワードとしてあげられるのが、彼らの「自己愛の強さ」です。 会社でバリバリ仕事をして輝いている自分、異性にもモテモテという理想の自分像があるのに、現実の自分はそうではない。自分はこうありたい、こうなるはずだというイメージが膨らんでいるのに、必ずしもその通りにいかない。そのため、こんなはずではなかったと理想と現実のギャップを受け入れられなくなっているのです。
 教育評論家の尾木直樹氏は、新型うつが増えている根本原因は、1990年代に始まった文科省の「新学力観」にあるのではないか指摘します。これは学力を「知識・理解」よりも、「関心・意欲・態度」を重視して評価しようという教育観で、テストで100点を取った子より、80点でもより関心や意欲を見せる子の方が高い評価を得るというものです。しかし意欲や関心の客観的な採点はむつかしく、授業で挙手をする回数などで測ることになり、新たな歪みが生まれました。その結果生徒たちは他者との比較ばかりを考えるようになり、「自己肯定感(自信)」が育たなくなってしまった。その頃に子供時代を過ごした若者は、自分の力で何かをやり遂げた経験が乏しく、些細なことでつまづいてしまうということです。

◎親の過大な期待を背負って

 さらに、家庭での親子関係にも原因があります。少子化で子供の数が減り、一人の子を丁寧に育てるという世の中になりました。その結果、子供は親の過大な期待と親自身の自己愛を影のように背負って生きていくことになります。期待に応えなければ愛されないので、子供は〝自分″を確立するひまもなく、親から投影された自己愛的イメージを引きずったまま思春期・青年期を迎えるのです。
 また人生の入り口で出会う親以外の大人、学校や教師が尊敬や畏怖の対象ではなくなっている点も遠因になっています。学校までが消費社会の一環に組み込まれ、親も子も学校は〝サービスを受ける場所″で「やってもらうのが当たり前」と考えています。大学を卒業するまで〝サービスを受ける側″で王様のようにふるまっていたのに、就職したその日から〝サービスを提供する″側に立たされてしまう。そこで途端について行けなくなるのです。
 新型うつ病患者を子に持つ親が歩んできた時代は、今日より明日、今年より来年はすべてが良くなると信じることができた社会でした。頑張ればいい人生が待っていると親から言われ、塾に通い受験を頑張ってきたのに、いい大学を卒業しても思ったような会社に就職できない、運よく入れたとしても、その会社が10年、20年先まで存在するかどうかも分からないし、自分がリストラされる可能性だってある。こんな現実を目の当たりにすれば、誰かのせいにでもしなければ、精神の均衡が取れないのも無理のないことかも知れません。

◎人間関係を生かして治療する「人薬(ひとぐすり)」

 新型うつは、原因が本人の性格や考え方にもあるため、治療は難しいと言われます。当人が置かれた環境に関わらず、客観的に見て決して厳しい状況ではないにもかかわらず、本人にとっては深刻な問題だからです。
 そのため休養や薬の効果も限定的で、最初は効いても、すぐに効果が薄れることも少なくありません。もちろんきちんと病院で治療することが大切ですが、それだけでなく、人の力を活用してうつを改善していく「人薬(ひとぐすり)」も有効になります。例えば本人が尊敬し、目標とできるような先輩の手助けをもらったり、患者同士の集まりに参加して、悩みを打ち明け互いに支え合うなどの方法で快方に向かうこともあります。

◎新型うつを長引かせない生活の工夫

新型うつ病患者は、休職したり入院したりして、一旦症状が良くなったように見えても、職場に復帰すると再び症状が悪化するケースがあります。だからといって休養が長くなると、仕事や日常生活のルーチンワークが余計負担になり、それを回避しようとする傾向はますます強まります。そうして、職場へ復帰するのがどんどん難しくなるのです。休養中でも生活のリズムを乱すのは良くありません。夜は寝て、昼間は目的をもって活動するという当たり前の日常生活を送ることが改善の近道になります。

●できるだけ仕事に行く

多少辛くても、仕事に行けるときは時間通りに出社し、仕事をすることです。やらなければいけないことに取り組むことが、心身のリズムを正常化する手助けになります。また、毎日の不満やストレスを翌日に持ち越さない、「1日ストレス決算主義」が何よりの予防になります。

●毎日目標を定めて生活する

「今日はこれをしよう」「これをやり遂げよう」と、その日の目標を持って生活することが大切です。
何も難しい目標を立てる必要はありません。「今日はこの本を読む」など簡単なことでOK。何かをしなければならないと、自分自身で自覚を持つことが生活リズムをととのえ、通常生活への復帰につながります。

●規則正しく生活する

朝は早起きして、三度の食事をきちんととり、夜は12時前には就寝するなど、規則正しい生活を心がけることが大切です。私たちの体内リズムは、朝起きて光を浴びることでリセットされます。これによって、1日24時間で活動する体のリズムが整います。

●掃除や片づけなど整理整頓を習慣づける

 体を動かす方法として、掃除や片づけなどが非常に有効です。適度な運動になるだけでなく、「今日は机の引き出しを片付けよう」と決めることが、その日の目標になります。部屋をきれいにすることで、達成感も生まれます。

●ウォ―キングなどで汗を流す

 1日1回は外へ出て、太陽の光を浴び、散歩などで体を動かすようにします。ウォ―キングなどの軽い有酸素運動をすると、脳内に気分を穏やかに安定させる幸せホルモンが分泌され、気持が楽になります。

◎病気と共に闘う家族の支えが大切

 新型うつ病患者には、「自分は周囲の人に理解されていない」と嘆く傾向が多く見られます。一番身近で支える家族は、まずこの状況が怠け心から来たものではなく、病気であることを認識し、共に闘っていく態勢をつくることが重要です。本人の苦しさを理解し、「家族はいつもあなたの味方だよ」というメッセージを繰り返し伝えていくことが大切になります。
 但し、周囲が気を使って優しくし過ぎるのは逆効果になります。従来型のうつ病とは逆に、新型うつ患者には励ますことも必要です。決まった時間に起きて会社に行く。その日の課題をやり遂げさせる。かける言葉は優しくても、心は厳しく持ちながら、本人を自分でやろうという気持ちにさせ、自分でできるように支援していくことが大切です。そうすることで、本人も家族も、頼り過ぎる、頼られ過ぎるという悪循環から解放されるのです。

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